2020年02月09日

 鎌倉幻視  湘南モノレール(その三)

セミナーから二ヶ月たった
私は参加者名簿をめくって千葉麗子を探した
”もしもし〇〇だけど ちかごろどう?”
もちろん父親に犯されたことが根底にあるのだけれど
アメリカのセミナーのようにあけすけに聞きはしない
日本人特有の惻隠の情というものだ。
セミナーの主人公はアメリカ人だった
だからわたしは麗子とよび 彼女は私を下の名前で呼んだ
”だいぶいいよ”
”こんど西鎌倉で会わないか”
”オッケー”
鎌倉山の入口のロイヤルホストでどう?
日時をを約束した あの店はなんとなく気に入っていた。
マンションンを出ると江の島行の電車がスピードを緩めて
止まろうとしていた。
松林から風がぬけて潮の香りがした
今日はあの可愛いい顔が゙見れる
この話しは十五年ほどまえのことであるが
麗子は今の弘中綾香に似ていた
”わたし今授業で「星の王子様」を読んでるの”
私はその本よんだこともなかった
でも彼女に合せて 興味があるようなふうをよそおった
どこに住んでるの
”鎌倉山”
やっぱりお屋敷のお嬢様か
”母だけどこれから行ってみる” 暗に父は居ないと言いたかったのだろう
じゃ おじゃましようか
 ”わたし車で来たの”
店の前にミニクーパーが止まっていた
ミニは大きな排気音を立てて鎌倉山を登りはじめた
私の運命も捨てたもんじゃないな
訪問販売で汗を拭き拭き登った山道を
今こんなに可愛いこの助手席に座って
七里ヶ浜の海を眺めてる
一枚百万もするだろう鋳物門扉の前でとまった
 この豪邸?
 うん
スイッチを押すと山の肌を掘り込んだ車庫の
シャッターが上がった
気の小さい私の胸はドラムの様に鳴った
車庫の奥にはトンネルがあり
庭へとつづいている階段

 (鎌倉幻視  湘南モノレール その三) 続く




posted by 花蓮 at 19:15| Comment(0) | 日記

2020年01月27日

 鎌倉幻視 湘南モノレール (その二)

モノレールの中ほど まるで箱庭のように開けた場所がある
西鎌倉の駅だ
まるで茶碗の縁のような半円形を描いてモノレールが走る
高さはビルの四階程度
周りは鎌倉の外輪山
その中にぽっかりと平地
この駅は鎌倉の超高級別荘地「鎌倉山」の入口だ
彼女の名は千葉麗子
東西線の大手町を降りてズンズン東京駅まで歩いて行く
私は小走りに後を追って話しかけた
”どこまで帰るの?” ”う〜ん ” 鎌倉”
ちょっと警戒したように言い淀んだ
”ラッキー 僕は江の島 腰越だよ”
モノレールは丁度帰りラッシュで混んでいた
麗子の隣りのつり革につかまった。
大学はどこ 東女(とんじょ)の二年生
ありゃ 俺より偏差値上だ
セミナーで裸でディスコ
ピンク色に上気したお椀の様な乳房も見た
偏差値なんてくそくらえ
どこで降りるの?
西鎌倉
(まさか鎌倉山じゃないよな)
これ以上聞けなかった
鎌倉山から下りてくる道が平地に出るところに
ロイヤルホストがあった
訪問販売がうまく行かない時 そこに入って
木間がくれに見える別荘を見上げて溜息をついたものだ
麗子はその駅で降りる
どこへ帰るのだ
”じゃ さよなら”
モノレールはあと三つで終点江の島
おれはとぼとぼ安宿に帰る小田急の江の島線のすぐ横だ
 (鎌倉幻視  つづく)
posted by 花蓮 at 19:25| Comment(0) | 日記

2020年01月19日

 鎌倉幻視  湘南モノレール

大船で東海道線を降り 湘南モノレールに乗る
終点は江の島だ
天井のレールから片腕一本でぶら下っている
真下を走る自動車に触れそうだ
田舎者には驚きだった
十年ほど前「気づきのセミナー」というやつに
のめり込んでいた。
その会場は東西線の佐賀町にあった
木場の運河が流れている東京下町である
心を解放するというので初日からディスコミュージック
大音量で掛けておどかすのだ
普段背広にネクタイのわたしには身がすくむようであった
三日間にいろんなカリキュラムが組まれている
自分の心の秘密を暴露する時間もある
五六人のグループに分かれる
綺麗な二十歳くらいの女の子が
だまりこくって 胸の内を明かさない
もちろんわたしも偽の悩みを言って
誤魔化した。
その子も五分以上黙っていたが
みんなにせめられて涙を流して
語りはじめた
”わたし父に犯されたの”
世に聞いていたがまさか目の前に
そんな体験を語るなんて
手先から背中に毛がそばだっていくのを感じた
女ずきのわたしも掛ける言葉を失った。

 (鎌倉幻視その一 つづく)
posted by 花蓮 at 07:45| Comment(0) | 日記