「自転車はこのまま置いて ドライブ行かないか」
「うん いいよ」
秀雄は腰越の方に下って行き、江の島の前に出た
橋を渡り ヨットハーバーの駐車場でUターンする。
いつも見てる風景の逆だ
湘南海岸、腰越のマンション、七ヶ浜、稲村、逗子の灯りが
ダイヤモンドのようだ。
鎌倉は抱きしめたいほど美しい。
秀雄は自分の生まれた処にいま愛着を感じていた。
「和子 鎌倉が綺麗だね」
「そうね 私も大好き」
「ここに一生住みたいわ」
俺と結婚したいという意味だろうか。
それから橋を戻って茅ヶ崎方向の134号へ
いわゆる 「希望の轍」
サザンロードだ
秀雄は気分が落ち込んだ時
この曲を聴く
そうする<何とかなるや>と言う気になるから
不思議だ。
浜須賀の三叉路を横浜に向うと遊行寺の坂がある
正月の駅伝の復路で苦しそうならランナーの
逆転劇が良く起こる所だ
この遊行寺は踊り念仏で知られている。
鎌倉時代、恍惚となって踊って、現世から逃れると
いうi一遍上人の教えだ。
セミナーのディスコミュージックと同じだ
考えずに身体を揺らす
「思考は行動に従う」
だから無理に笑い続けると嬉しくなってくる。
鎌倉時代に素晴らしい<発見>だった。
サザンの歌は 現代の踊り念仏だ
湘南は素晴らしい人が出る。
残念ながら秀雄のミニクーパーには
CDもカセットデッキも付いていない。
しかし 頭は「希望の轍」モードだった。
134号に 金色のタイヤ痕が二本見えた。
和子も楽しそう
若者の(心どうし)が響くのにお金も時間も
要らない。
例え公園の壊れたベンチでも
豪華ホテルの椅子にもまさっているのだった。
男女は神がこしらえたもの
説明も助けも要らない。
この夜は 最高シティウェーションで
鎌倉狐と
湘南の海と風が、
三浦荒次郎小桜姫以来の出会いを作った。
のほほん育ちの秀雄は知らなかった・・・・