<ハルピンのジリ>
夕方になって
「今晩は食べに行こうか」
「ウン そうしよう」
話はまとまって近くの「おかず食堂」に行く
煮魚、焼き魚、煮物など日本家庭料理が並んでいる
中国式一品ドカン型は私が食べないのを
妻はよ〜く知っている
それで日本式何品も少しの食堂をよく利用するようになっている
「いつもどうも」
パートの小母さんが声を掛けてくる。
私は初めて見る顔だが、俺を知っているらしい。
一膳メシやの叔母さんに知られるのは
六十男のみじめさを晒すようでいやなものだ
妻は何も感じてない
「いいじゃない お金払うんだから」
と妻はいう
食べ終わってから
「どこへ行く?」
と珍しく妻が言う
「モスバーガーでカフェラテ飲もうか」
「そうしよう」
窓辺の席に座る
「初めてのデートはハルピンのマックだったよな」
あれから何年立つだろう
新婚だと思っていたら 妻も三十代になった。
「これ私 20歳の写真」
i フォンに入った写真を初めて見せる
「へェ〜 美人だったんね」
「今は?」
「今も もちろんだけど」
おっと変な方向に入って行きそうだ
写真が次々と出てくる
終いにはハルピンの実家の犬まで登場する
賢いシェパードで<ジリ>という
ジリは中国語で<幸福>と発音が同じ
「イタリアにも行きたいな」
「君の好きなミートソースのある国さ」
「ルーマニアも良いんだよ」
「会社にも ルーマニア人がいたよ」
一瞬 外人パブのルーマニア人と同伴した
事を思いだした。
「ルーマはローマなんだよ」
パブの彼女の知識を披露してしまった
オジイと若者の会話は夕暮れのモスで続いた